AIソリューション > 不動産業界AI活用コラム > 業務効率化・自動化 > 不動産会社の外国人対応をAIで多言語化する手順|国の14言語無料ツールと使い分け
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この記事でわかること
- 外国人対応を「国の14言語無料ツール」「AI翻訳」「宅建士」の三層に分けて仕組み化する考え方
- 問い合わせ〜内見〜申込〜契約〜入居後までの6ステップと、各段階で使えるツール
- やさしい日本語への変換にそのまま使えるAIプロンプト
- 国籍を理由とする入居拒否・重要事項説明・個人情報の3つの法的注意点
店頭に外国人のお客様が来たとき、対応できるスタッフが1人もいない——中小の不動産会社で現実に起きている場面です。採用で語学人材を確保するのは難しく、かといって断れば機会損失と法的リスクの両方を抱えます。
外国人対応は、語学ができる人を雇う問題ではなく、「国の14言語無料ツール+AI翻訳+宅建士」の三層で仕組み化する問題です。
契約書や重要事項説明書の翻訳は、国土交通省が14言語の公定見本を無料で公開しており、ゼロから作る必要がありません。AI翻訳が受け持つのは、見本が存在しない日々の問い合わせ・内見中の会話・入居後の個別連絡です。そして宅建士による説明義務だけは、どのツールを使っても人に残ります。この記事では、その役割分担を6つのステップに落として解説します。
在留外国人412万人——「英語で対応」から発想を変える
出入国在留管理庁の統計によると、在留外国人数は2025年末(令和7年末)時点で412万5,395人。前年から35万6,418人(9.5%)増え、初めて400万人を超えて過去最高を更新しました。賃貸市場の借り手として、外国人は「たまに来る例外」ではなく恒常的な顧客層になっています。
ここで見落とされがちな事実が1つあります。
国籍別の上位5か国(中国・ベトナム・韓国・フィリピン・ネパール)に、英語を母語とする国は1つも入っていません。
「外国人対応=英語を話せるスタッフ」という発想では、実際の顧客層の大半に届きません。中国語・ベトナム語・ネパール語を話せる人材をそれぞれ採用するのは現実的でなく、だからこそ多言語に同時対応できるAI翻訳と、国が整備した14言語ツールの組み合わせが効きます。国のツール群が14言語構成なのも、この国籍分布が背景にあります。
もう1つ、対応体制を整える意味を示すデータがあります。法務省委託の外国人住民調査(2016年度)では、過去5年に住居を探した外国人のうち39.3%が「外国人であることを理由に入居を断られた」経験を持つと回答しました。10年近く前の調査ですが、裏を返せば、きちんと対応できる会社がそれだけ少なかったということです。対応の仕組みを持つ会社は、増え続ける顧客層から「選ばれる側」に回れます。
何をAIに任せ、何を任せないか——国の無料ツールとの役割分担
外国人対応と聞くとまずAI翻訳ツールの導入を考えがちですが、順序が逆です。正確さが求められる書面ほど、実は既に「人手で翻訳済みの公式見本」が存在します。国土交通省は「外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居について」という施策ページで、実務ツール一式を14言語で無料公開しています。
- 外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン(実務対応マニュアル・Q&A・チェックシート)
- 部屋探しのガイドブック(14言語)
- 賃貸住宅標準契約書の多言語版(家賃債務保証会社型・連帯保証人型・定期借家版)
- 重要事項説明書の翻訳版(14言語)
- 入居申込書・審査書類チェックシート・入居の約束・原状回復のポイント(各14言語)
契約・重説まわりの翻訳は自作せず国の公定見本を使い、AIは「見本が存在しない日常のやり取り」に充てる——これが役割分担の基本線です。
誤訳が契約トラブルに直結する領域を人手翻訳済みの公式資料でカバーし、AI翻訳は量が多くて定型化できない会話に使う。整理すると次の表になります。
| 業務の段階 | 国の無料ツール(公定訳) | AIが受け持つ部分 | 人が担う部分 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせ対応 | — | 定型返信の多言語ドラフト・自動応答 | 送信前の内容確認 |
| 内見・接客 | 部屋探しのガイドブック | 音声翻訳アプリでの会話 | 条件のすり合わせ |
| 申込・審査 | 審査書類チェックシート | 案内文の翻訳 | 審査基準の統一運用 |
| 契約・重説 | 標準契約書・重説の14言語版 | 補足説明の下書き | 宅建士による説明(義務) |
| 入居後フォロー | ゴミ出し・生活ルール資料 | 個別連絡の翻訳・自動応答 | トラブル時の対応判断 |
外国人対応をAIで多言語化する6ステップ
- 国のガイドラインで方針と社内ルールを決める
- 問い合わせ対応を多言語化する(LINE・メール)
- 内見・接客に音声翻訳とやさしい日本語を入れる
- 申込・審査の書類と基準を整える
- 契約・重説は14言語見本+宅建士で行う
- 入居後の連絡を多言語で仕組み化する
STEP1 国のガイドラインで方針と社内ルールを決める
最初にツールではなく方針を決めます。国土交通省の入居円滑化ガイドラインと「大家さん、不動産事業者のための外国人の受入れガイド」(2021年12月)には、受け入れ実務のQ&Aとチェックシートがまとまっています。ここで「どの言語圏のお客様が多いか」「誰がどの段階を担当するか」を決めておくと、後のツール選びに無駄がなくなります。日本賃貸住宅管理協会には「外国語が話せる不動産店一覧」への登録制度もあり、対応できる体制自体が集客の入口になります。
STEP2 問い合わせ対応を多言語化する(LINE・メール)
問い合わせは件数が多く定型化しやすいため、AI活用の効果が最も出やすい段階です。注意点として、LINE公式アカウントの標準機能(応答メッセージ)に自動翻訳はありません。よって現実的な構成は、よくある質問への回答をChatGPTやDeepLで事前に翻訳し、キーワード応答の定型文として登録しておく形です。メールの個別返信は、AIに多言語のドラフトを作らせてから人が内容を確認して送ります。DeepLは2025年6月からベトナム語に対応し、対応言語は36になりました。在留数2位のベトナム語が最近まで未対応だったことは、AI翻訳でも言語によって成熟度が違うという注意点でもあります。
STEP3 内見・接客に音声翻訳とやさしい日本語を入れる
対面の会話には音声翻訳を使います。入口としては、国立研究開発法人NICTが開発した無料アプリVoiceTra(33言語対応)で翻訳精度を体感するのが手軽です。ただしVoiceTraは研究用の試験アプリで業務利用は想定されていないため、日常業務ではポケトーク(音声・テキストで91言語対応・公式ストア価格36,300円から。2026年7月時点)など市販の翻訳機・サービスに切り替えます。
ツールと並ぶもう1つの武器が「やさしい日本語」です。出入国在留管理庁と文化庁が2020年8月にガイドラインを策定しており、一文を短くする・二重否定を避けるといった書き換えルールが定まっています。在留期間の長いお客様には、下手な機械翻訳より、やさしい日本語のほうが正確に伝わる場面が多くあります。変換はAIに任せられます。
あなたは不動産会社のスタッフです。次の案内文を「やさしい日本語」に書き換えてください。 ・一文を短くする(1文に情報は1つ) ・二重否定を使わない ・敬語は「です・ます」だけにする ・専門用語(敷金・礼金・原状回復など)は残してよいが、直後に短い説明を足す ・最後に、同じ内容の英語訳と中国語(簡体字)訳も出力する 【案内文】 (ここに原文を貼り付け)
STEP4 申込・審査の書類と基準を整える
申込段階では、国の「入居審査必要書類チェックシート」(14言語)を渡せば、必要書類の説明はほぼ完結します。審査そのものは、収入や保証会社の利用可否など日本人のお客様と同じ合理的な基準で統一します。国籍を理由に一律で断る運用は後述のとおり法的リスクが大きく、AIチャットの定型文に「外国籍の方はお断り」といった文言を入れるのは論外です。在留カードで在留資格と期限を確認する際は、番号の扱いに個人情報保護法上の注意があります(後述)。
STEP5 契約・重説は14言語見本+宅建士で行う
契約段階は、国土交通省の多言語版標準契約書と重要事項説明書の翻訳版をそのまま使います。ここをAI翻訳で自作しないのがポイントです。多言語版はあくまで参考訳であり、契約内容の最終確認は日本語の書面で行う運用にすると、訳文の食い違いによるトラブルを避けられます。そして重要事項説明は宅建業法35条により宅建士が行う義務があり、翻訳アプリや通訳はその補助にとどまります。オンラインで行うIT重説と通訳・翻訳ツールを組み合わせれば、遠方の店舗に多言語対応を集約する形も組めます。
STEP6 入居後の連絡を多言語で仕組み化する
入居後はゴミ出しや設備トラブルなど、細かい連絡が長期間続きます。生活ルールの説明は国の14言語資料と自治体の多言語ごみパンフレットで土台を作り、個別の連絡はSTEP2と同じ「AIでドラフト→人が確認」で回します。管理戸数が多い会社は、家賃保証に多言語コールセンターが付帯するサービス(後述のRenxaなど)を併用すると、夜間・休日の負荷を外に出せます。
AI活用お役立ち資料ダウンロード
つまずきやすい3つの法的リスク
①国籍を理由とする一律の入居拒否
「外国人お断り」の運用は、単なる機会損失では済みません。法務省人権擁護局は外国人であることを理由とするアパート入居拒否を人権問題として啓発しており、裁判例でも、外国籍を理由とする入居拒否を憲法14条に反する不合理な差別として違法とし、貸主側に損害賠償を命じた例があります(大阪高裁2006年判決ほか)。審査は支払能力や保証など合理的な基準で行い、その基準を国籍によらず統一することが守りの基本です。
②重要事項説明を翻訳ツールで済ませる
重要事項説明は宅建士が行う法定義務であり、翻訳アプリの画面を見せて終わりにはできません。多言語版の重説見本を事前に渡して読んでもらい、当日は宅建士が説明しながら通訳・翻訳ツールで補足する、という組み合わせが正しい形です。
③在留カード情報のクラウドAIへの入力
在留カード番号とパスポート番号は、個人情報保護法の政令で個人識別符号に指定されており、それ単体で個人情報に当たります。カードの画像を翻訳目的でクラウドAIツールにそのまま入力すると、個人データの取り扱いとして利用目的の特定・通知や委託先の監督義務が生じます。翻訳が必要なのは大抵ただの案内文なので、書類の画像を丸ごと入れず、番号や顔写真を含まないテキスト部分だけをAIに渡す運用が安全です。入力データが学習に使われるかはツールのプランや設定で異なるため、業務利用の前に各社の公式ドキュメントで確認します。
業界サービスの現在地——「多言語×AI」はまだ空白
不動産業界向けのサービスも動き始めています。イタンジは2026年3月に、賃貸管理システムの入居者問い合わせに対してAIが回答案を提示する「AI入居者対応支援機能」の提供を始めました。ただし発表内容に多言語対応の記載はありません。一方、Renxaが2026年4月に家賃保証へ自動付帯を始めた「多言語Livingサポート」は最大7言語対応ですが、こちらはAIではなく人によるコールセンターです。
つまり「業界特化×多言語×AI」を全部満たすサービスはまだ見当たらず、当面は汎用のAI翻訳を自社の業務フローに組み込んだ会社が先行できます。
逆に言えば、この空白は数年で埋まっていく可能性が高い領域です。今のうちに国の無料ツールとAI翻訳で運用を回し、外国人対応のノウハウを社内に貯めておけば、専用サービスが出揃ったときの選定・乗り換えも速くなります。




