AIソリューション > 不動産業界AI活用コラム > 重説・契約・査定 > 契約書のAIチェックは違法?法務省の整理と、不動産の賃貸借・売買契約書をAIで下チェックする手順
公開: ・ 最終更新:
契約書のAIチェックは、使い方を選べば違法ではない
自社が当事者になる契約書を、社内の業務としてAIで点検する——この通常の使い方であれば、多くの場合、弁護士法72条(非弁行為の禁止)の問題にはなりません。法務省が2023年8月に公表したガイドライン「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」は、違反になるのは「報酬を得る目的」「事件性」「鑑定等の法律事務」の3つの要件がすべてそろった場合だけという構造を明確にしました。同ガイドラインは「通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討は、多くの場合『事件性』がない」とも整理しています(法務省、2023年)。
つまり検討すべき論点は「AIを使ってよいか」ではなく、「どの範囲で使い、どこから先を弁護士・宅建士に渡すか」です。本記事では、この線引きを法務省の一次情報で整理したうえで、不動産会社が賃貸借契約書・売買契約書・37条書面をAIで下チェックする手順を、コピペで使えるプロンプトつきで解説します。
この記事でわかること
- 「契約書のAIチェックは違法?」に対する法務省ガイドラインの整理(3要件の考え方)
- 賃貸借・売買・37条書面それぞれでAIに点検させる観点と公的な根拠
- AIで契約書を下チェックする4ステップと、そのまま使えるプロンプト
「契約書のAIチェックは違法?」——法務省ガイドラインの整理
「AIに契約書を見せるのは非弁行為になるのでは」という不安には、すでに国の回答があります。法務省は2023年8月、AI契約書チェックサービスと弁護士法72条の関係を整理したガイドラインを公表しました。生成AIを使ったサービスも原則として同じ枠組みで判断する、と明記されています(法務省、2023年)。
ポイントは、弁護士法72条違反が成立するのは次の3要件がすべてそろった場合に限られることです。
| 要件 | 内容 | 不動産実務での目安 |
|---|---|---|
| ①報酬を得る目的 | 現金に限らず物品等も含む。無料でも有償サービスへの誘導など実質的な対価関係があれば該当しうる | 自社の業務として社内で使う分には、第三者から報酬を得る構図になりにくい |
| ②事件性 | 訴訟事件等に準ずる程度に、権利義務に争い・疑義があること | 通常の契約締結に向けた検討は「多くの場合『事件性』がない」(ガイドライン原文)。紛争発生後の文書は該当しうる |
| ③鑑定等の法律事務 | 個別事案に応じた法的リスクの有無・程度の表示、個別事案を法的に処理した具体的修正案の表示など | ひな形・チェックリストとの一致や相違の表示、一般的な条項例・解説の表示にとどまれば通常該当しない |
1つでも欠ければ違反にはなりません。だから「通常の業務として、自社の契約書を、チェックリストとの突合や疑問点の洗い出しに使う」という使い方は、3要件の構造から見て安全側に収まりやすいのです。逆に言えば、線を越えやすいのは紛争が起きたあとです。立ち退き交渉や原状回復トラブルなど、すでに当事者間で争いになっている案件の和解書・示談書をAIだけで処理するのは、②の事件性が認められうる領域に踏み込みます。ここからは弁護士の出番です。
なお、ガイドラインは3要件がそろう場合でも、弁護士が自らサービスの利用結果を踏まえて契約書を精査・修正する形での利用は通常違反しない、という適法類型も示しています(法務省、2023年)。社内に弁護士がいない不動産会社にとっての実務的な結論は、シンプルに「平時の下チェックはAI、紛争がらみは弁護士」という分担です。
不動産の契約書は3種類に分けて考える
ひとくちに「契約書のチェック」といっても、不動産会社が扱う書面は性格の異なる3種類に分かれます。AIに渡す観点もそれぞれ変わります。
| 書面 | 位置づけ | AIに点検させる主な観点 |
|---|---|---|
| 賃貸借契約書 | 貸主・借主間の契約。国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)がひな形の基準になる | 原状回復特約・連帯保証の極度額・禁止事項など、標準契約書やガイドラインとのずれ |
| 売買契約書 | 売主・買主間の契約。2020年4月施行の改正民法(契約不適合責任)が前提 | 契約不適合責任の通知期間・手付解除・ローン特約の条件 |
| 37条書面 | 宅建業法37条が定める、契約成立後に遅滞なく交付する書面。宅建士の記名が必要 | 法定記載事項(代金・引渡時期・移転登記の申請時期・ローンあっせん不成立時の措置など)の漏れ |
ここで押さえておきたいのが、重要事項説明書(35条書面)との違いです。重説は契約成立前に宅建士が説明するための書面、37条書面は契約成立後に契約内容を確定させて交付する書面で、説明義務はなく宅建士の記名が要件です(宅地建物取引業法、e-Gov法令検索)。当社のコラムでは重説×AIを別記事で扱っているため、本記事は契約書(37条書面側)に絞ります。
見落とされがちな事実をひとつ。37条書面は2022年5月18日施行の宅建業法改正で押印が廃止され、相手方の承諾を得れば電磁的方法での交付も認められています(国土交通省、2022年)。現行法の要件は宅建士の「記名」のみです。AIで下チェックし、宅建士が記名し、電子で交付する——という一気通貫の業務フローを組む土台は、法令側がすでに整えています。紙と判子を前提にした旧フローのままAIだけ足すより、書面の電子化とセットで見直すほうが効率化の幅は大きくなります。
AIで契約書を下チェックする4ステップ
手順はシンプルですが、順番に意味があります。AIを「最終判定者」ではなく「見落とし防止の網」として置くことが全体の設計思想です。
- チェック観点を決める:書面の種類ごとに、公的な基準に紐づく観点リストを用意する(賃貸借=原状回復ガイドライン・標準契約書/売買=契約不適合・手付/37条書面=法定記載事項)。
- 個人情報をマスキングして入力する:借主・買主の氏名や住所は「A様」「○○区の物件」に置き換える。入力データが学習に使われない設定・プランかも確認する。
- AIに観点別で洗い出させる:条項の有無、観点リストとの突合、疑問点のリストアップまでをAIの仕事にする。「問題なし」の判定はさせない。
- 宅建士・担当者が一次資料と突合して最終判断する:AIの指摘を法令・ガイドライン原文や登記情報と照らして確定する。37条書面は宅建士が記名する。
ステップ1の観点には公的な裏付けを使います。賃貸借なら、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版・2011年)が「通常損耗・経年変化の復旧費用は賃貸人負担が原則」という考え方と特約の有効性の判断枠組みを示しており、特約がこの原則からどれだけ離れているかが点検の軸になります。連帯保証を付ける場合は、2020年の民法改正で個人根保証に極度額の定めが必須になった点も観点に入ります。売買なら、改正民法の契約不適合責任——種類・品質の不適合は買主が知った時から1年以内の通知が原則(民法566条)——と、手付解除の「相手方が履行に着手するまで」という制限(民法557条)が定番の確認どころです(法務省・e-Gov法令検索、2026年6月時点)。
ステップ2の根拠は個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月)です。本人の同意なく、入力した個人データが回答の生成以外(モデルの学習など)に利用される場合、個人情報保護法に抵触するおそれが指摘されています。マスキングするか、学習に使われないことを確認したサービス・プランを使うか、どちらかを社内ルールにしておくのが安全です。生成AI各社とも法人向けプランでは入力を既定で学習に使わない設計が一般的ですが、プランや設定で扱いが異なるため、契約書という機微な文書を扱う前に自社のプランの仕様を公式情報でご確認ください。
コピペで使える契約書チェックのプロンプト
そのまま使える指示文を2つ用意しました。どちらも「断定させない」「最終判断は人に残す」を指示文の側に組み込んであります。AIに白黒の判定をさせると、その判定を信じてしまう運用になりがちです。「人が確認すべき箇所を漏れなく挙げる」役割に固定するのがコツです。
あなたは不動産の賃貸借契約書のチェック担当です。以下の契約書案を、2020年改正後の民法と、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」「賃貸住宅標準契約書」の考え方に照らして点検してください。 チェック観点: ・原状回復に関する特約が「通常損耗・経年変化は賃貸人負担」の原則からどの程度離れているか ・連帯保証条項に極度額の定めがあるか ・敷金の精算方法・返還時期の記載があるか ・禁止事項・解除条項に一方的すぎる内容がないか ・標準契約書にあって、この契約書に無い条項は何か 出力は「条項/指摘内容/なぜ確認が必要か」の表でお願いします。 法的リスクの断定はせず、宅建士・弁護士が確認すべき点として挙げてください。 (ここに契約書の本文を貼り付ける。氏名・住所などの個人情報は伏せ字にすること)
あなたは宅地建物取引業法に詳しい事務担当です。以下は売買契約の37条書面の案です。 2022年5月の宅建業法改正後の現行法を前提に、宅建業法37条1項の記載事項に漏れがないかを点検してください。 特に確認したい項目: ・当事者・物件の表示・代金額と支払時期/方法・引渡時期・移転登記の申請時期 ・契約解除に関する定め、損害賠償額の予定/違約金の定め ・ローンのあっせんがある場合の「貸借が成立しないときの措置」 ・契約不適合責任に関する定めの有無 出力は「記載事項/記載の有無/確認が必要な点」の表でお願いします。 最終確認と記名は宅建士が行う前提で、断定はせず確認事項として挙げてください。 (ここに37条書面の案を貼り付ける。個人情報は伏せ字にすること)
つまずきやすい3つのポイント
運用を始めると、つまずきどころはだいたい決まっています。先回りして3つ挙げます。
1つめは、AIの法律知識が古いことがある点です。実は、契約書チェックでAIが間違える典型は「知らないこと」ではなく「古いまま覚えていること」です。宅建業法の押印義務は2022年に廃止されているのに「記名押印が必要です」と指摘してきたり、2020年に契約不適合責任へ改正済みなのに「瑕疵担保責任」の枠組みで助言してきたりします。プロンプトに「2022年宅建業法改正・2020年民法改正後の現行法を前提に」と時点を指定し、チェックする側も改正のポイントを押さえておくと、この種のずれに気づけます。
2つめは、AIの指摘を鵜呑みにする運用です。AIには見落としも誤検出もあります。重説の説明(35条)と37条書面への記名は宅建士の法定業務であり、AIの出力をそのまま成果物にする運用は法令の建てつけとも整合しません。AIの仕事は「疑問点を挙げる」まで、確定は人——この分担を崩さないことが、結局いちばんの時短になります。確認が形骸化しないからです。
3つめは、個人情報の扱いです。前述のとおり、マスキングと学習設定の確認を社内ルール化しておきます。担当者ごとの判断に任せると、急いでいるときに生の契約書がそのまま貼り付けられます。ルールはプロンプトのテンプレートに「個人情報は伏せ字にすること」と書き込んでおくと、運用に自然に埋め込めます。
まとめ
契約書のAIチェックは、自社の契約書を社内業務として点検する通常の使い方なら、多くの場合弁護士法72条の問題になりません。法務省ガイドライン(2023年8月)は報酬・事件性・鑑定等の3要件がすべてそろった場合だけが違反という構造を示し、通常の契約検討には事件性がない場合が多いと整理しています。実務の線引きは「平時の下チェックはAI、紛争がらみは弁護士」。そのうえで、賃貸借は原状回復ガイドライン、売買は改正民法、37条書面は法定記載事項という公的な観点をAIに渡し、個人情報をマスキングし、最終判断と記名は宅建士に残す——この4ステップを型にすれば、チェックの速さと安全性は同時に保てます。37条書面の押印廃止・電子交付と合わせて、契約まわりの業務フロー全体を見直す入口にしてください。




