話を聞きながら、メモを取りながら、次の質問も考えながら
不動産の初回ヒアリングや内見同行は、やることが多い。
会話に集中したいのに、手元のメモが追いつかない。打合せが終わっても「あの話、どこに書いたっけ」と見返す時間がかかる。こうした状況は多くの不動産営業スタッフの皆さんが経験していると思います。
スマートフォン1台で会話を録音し、AIに文字起こしと要約を任せる——この流れが整うと、打合せの在り方が根本から変わります。担当者はメモから解放されてお客様との会話に集中でき、打合せ後は数分でヒアリング内容の整理から提案資料の下書きまでが手元に揃います。
本記事では、すぐに試せるツールのご紹介から、議事録を起点にした発展的な活用法まで、具体的なプロンプト例を交えて解説していきます。
スマホ1台で始める:録音から議事録まで
録音はスマートフォンの標準機能でも十分ですが、文字起こしまで一気に行えるアプリを使うと後の作業がぐっと楽になります。2026年時点で実用的なツールを整理しました。
| ツール名 | 特徴 | 文字起こし | 費用 |
|---|---|---|---|
| Notta | 録音と同時にリアルタイムで文字起こし。日本語の精度が高く、話者の識別にも対応。打合せ後すぐにテキストが手元に残る | 自動(リアルタイム) | 無料~月額約1,800円 |
| Otter.ai | 英語に強い文字起こしツール。日本語にも対応しており、要約機能も内蔵。Zoom・Google Meetとの連携も可能 | 自動(リアルタイム) | 無料~月額約1,300円 |
| Googleレコーダー (Android) | Googleが提供する標準録音アプリ。完全無料で日本語の文字起こしが可能。シンプルで使いやすく、まず試すのに最適 | 自動 | 無料 |
| iPhone標準 ボイスメモ+ Whisper | 録音はiPhone標準アプリで行い、音声ファイルをWhisper(OpenAI製の文字起こしAI)に通す方法。精度が高く無料でも使える | Whisperに別途通す | 無料(Whisper APIは従量課金) |
| ChatGPT (音声入力) | ChatGPTアプリの音声入力機能を使い、話しかけながら整理する方法。録音と整理を同時に行いたい場面に向いている | リアルタイム入力 | 無料~月額約3,000円 |
まず試すなら「Googleレコーダー(Android)」または「Notta無料プラン」がおすすめです。
インストールして録音ボタンを押すだけで、自動的に文字起こしが始まります。
完璧な精度でなくても、ゼロからメモを起こすよりずっと速く整理できます。
文字起こしテキストをChatGPTに渡す
文字起こしされたテキストは、そのままChatGPTに貼り付けて「整理して」と頼むだけで、構造化された議事録に変わります。文字起こしのまま読むより、圧倒的に使いやすい形に整えてくれます。
【入力例:議事録の整形】
不動産仲介の初回ヒアリングの文字起こしをお願いします。
以下の形式で議事録を作成してください。
①お客様の基本的な希望条件(エリア・間取り・予算・時期など)
②お客様が特にこだわっているポイント(明確に言っていたこと)
③お客様が懸念・迷っていること
④担当者が次回までに対応すべきアクション
⑤次回打合せで確認したいこと
(文字起こしテキストをここに貼り付ける)
この形式で整理しておくと、社内での引き継ぎにも使えますし、次回の打合せ前に読み返すだけでお客様の状況を即座に把握できます。複数の担当者が関わる場合でも、認識のズレが起きにくくなります。
打合せの内容を「次の提案」に変える発展的な使い方
議事録を作るだけでも十分便利ですが、AIの本領はその先にあります。打合せで聞き出したお客様の情報を使って、提案に必要な素材をそのまま自動で組み上げることができます。
発展① ヒアリング内容からエリア情報を自動まとめ
「〇〇駅周辺が希望」「子どもが小学校に上がる前に引っ越したい」「スーパーが近いと嬉しい」こうした会話の断片から、AIはお客様に響くエリア紹介の資料を作れます。
【入力例:エリア情報の自動生成】
以下は先ほどのお客様とのヒアリング内容の要約です。
このお客様に向けて、〇〇駅周辺エリアの住環境を紹介する文章を作成してください。
お客様の状況:30代共働き夫婦・子ども1人(4歳)・予算4,500万円・〇〇駅徒歩10分以内希望・保育園・スーパーの近さを重視
含めてほしい情報:
・〇〇駅周辺の子育て環境の特徴
・近隣の主なスーパー・保育園・公園の概要
・このエリアを選ぶメリットと、検討時に注意すべき点
・同予算帯で検討できる物件の相場感(一般的な情報として)
ここにPerplexityを組み合わせると、エリアの最新情報(新しく開店したスーパー・再開発の状況など)を検索しながら盛り込めます。ChatGPTで文章化、Perplexityで最新情報の補完、という使い分けが効果的です。
発展② ヒアリング条件からおすすめ物件の選定軸を整理する
「希望条件に合う物件を選ぶ」作業も、AIを使うと整理が速くなります。ポータルサイトや自社システムから候補を複数ピックアップしたあと、ヒアリング内容と照らし合わせて「このお客様に最も響く順番と理由」をAIに整理させることができます。
【入力例:物件の優先順位づけと説明文生成】
以下はお客様のヒアリング内容と、候補物件のリストです。
お客様の希望・こだわり・懸念点を考慮して、提案する順番と各物件の推薦理由を整理してください。
【お客様の希望まとめ】
・絶対条件:〇〇線沿線・駅徒歩10分以内・3LDK以上・予算5,000万円以内
・こだわり:リビングが広い・収納が多い・できれば新しめ
・懸念:ローンの返済が不安。管理費・修繕積立金が高い物件は避けたい
【候補物件】
物件A:〇〇駅徒歩8分・3LDK・4,480万円・築5年・管理費12,000円
物件B:〇〇駅徒歩3分・3LDK・4,980万円・築12年・管理費8,000円
物件C:〇〇駅徒歩12分・4LDK・4,200万円・築2年・管理費15,000円
各物件について、このお客様への推薦文(3〜4文)も作成してください。
AIが出した推薦文をそのまま使う必要はなく、実際に物件を見ている担当者の視点で加筆・修正するのが前提です。「骨格を作る」作業をAIに任せることで、担当者は「この物件の何が刺さるか」という本質的な判断に集中できます。
発展③ 打合せ後のフォローメールを即座に作る
打合せが終わってから、御礼メールを書く時間が取れずに後回しになる。などはよくある話です。しかし、お客様との接点は打合せ直後が最も印象に残りやすく、フォローのスピードが信頼感に直結します。
AIを使えば、打合せ終了後5分でお客様へのフォローメールの下書きが完成します。
【入力例:打合せ後フォローメールの生成】
以下は先ほどの打合せのヒアリング要約です。
この内容をもとに、お客様へ送るフォローメールの下書きを作成してください。
含めてほしい内容:
・本日の打合せへの御礼
・ヒアリングで確認した希望条件の確認(認識に齟齬がないか確認する目的)
・次のステップ(物件をピックアップして改めてご連絡する旨)
・気軽に追加の希望や変更点を伝えてほしい旨
文体は丁寧すぎず、親しみやすい担当者らしいトーンで。300字程度でお願いします。
【ヒアリング要約】
(先ほどAIで作成した議事録要約をここに貼り付ける)
議事録の要約をそのままメール下書きの材料として使える、という流れがポイントです。録音→文字起こし→要約→メール下書きが一本の流れでつながり、打合せ後の事務作業がまとめて片付きます。
発展④ 社内引き継ぎ・顧客管理への転用
同じ要約テキストは、社内の顧客管理にもそのまま使えます。CRMに入力する顧客情報の下書き、上司への案件報告、同僚への引き継ぎメモ。これらをAIで生成フォーマットを揃えることで、社内の情報共有の質が安定します。
【入力例:CRM入力用の顧客情報シートの生成】
以下のヒアリング要約をもとに、顧客管理システムへの入力用データを整理してください。
出力形式:
・氏名/連絡先:(記載があれば)
・家族構成:
・購入 or 賃貸:
・希望エリア:
・希望間取り・広さ:
・予算:
・入居希望時期:
・絶対条件:
・あれば嬉しい条件:
・懸念・不安点:
・次回アクション:
・担当者メモ(会話の印象・温度感など):
【ヒアリング要約】
(議事録要約をここに貼り付ける)
このフォーマットを社内で統一しておくと、誰が担当してもお客様の情報が同じ質で蓄積されます。担当者が変わっても、AIが作った構造化データが顧客情報の引き継ぎをサポートしてくれます。
打合せの「質」が変わる理由
録音とAI要約を使い始めた営業担当者から出てくる声で最も多いのが、「お客様との会話に集中できるようになった」というものです。メモを取ることに意識が向いていると、お客様の表情や言葉の裏にある本音を拾い損ねることがあります。「ちょっと間取りが気になって……」「夫がまだ迷っていて……」といった何気ない一言が、実は重要なヒントであることは少なくありません。
録音に任せることで、担当者は「聴くこと」と「次の質問を考えること」だけに集中できます。これは、特にヒアリングの質が成約率に直結する不動産営業において、大きな変化をもたらします。
| 場面 | AI活用前 | AI活用後 |
|---|---|---|
| 打合せ中 | メモを取りながら会話。聞き漏らしが不安で、会話が途切れがちになることもある | 録音に任せて会話に集中。お客様の表情や言葉のニュアンスを拾いやすくなる |
| 打合せ直後 | 走り書きのメモを整理するのに20〜30分かかる | 文字起こしをAIに貼り付けて整形。5〜10分で議事録が完成 |
| フォローメール | メールの文章を考えるのに時間がかかり、後回しになりがち | 議事録要約を元にAIがメール下書きを生成。打合せ当日中に送れる |
| 物件提案 | 希望条件を見返しながら手動でポータルを検索。提案文も一から書く | ヒアリング要約をAIに渡し、物件の優先順位と推薦文の骨格を作らせる |
| 社内共有 | 個人のメモや記憶に頼った共有。担当者によって情報の粒度が違う | 構造化された議事録を社内に共有。誰が見ても同じ情報が手に入る |
使う前に確認しておくこと
録音前に必ずお客様の了承を得る
会話を録音する際は、必ず事前にお客様へ伝えて了承を得てください。「打合せの内容を後で正確に確認するために録音させていただいてもよいですか」と一言添えるだけです。ほとんどの場合、丁寧に伝えれば快く了承してもらえます。
無断録音は個人情報保護の観点からトラブルの原因になり得ます。また、録音していることを伝えることで「しっかり対応してくれる会社」という印象にもつながります。
AIに渡す情報の範囲に注意する
文字起こしのテキストには、お客様の氏名・連絡先・資産状況・家族構成など、個人情報が含まれることがあります。ChatGPTなどの無料版サービスに入力する際は、個人を特定できる情報はマスキング(「山田様」→「お客様」など)した上で使うことが望ましいです。
会社として業務利用する場合は、Google WorkspaceやMicrosoft 365などのビジネスプランの利用を検討してください。これらは入力データがAIの学習に使用されないことが契約レベルで保証されており、個人情報を含む業務データを扱う場合に適しています。
【個人情報の取り扱いまとめ】
・録音前にお客様の了承を得る(必須)
・文字起こしをAIに渡す際、氏名・連絡先・資産情報はマスキングする
・業務利用の場合はビジネスプランのAIサービスを検討する
・社内で「AI利用ルール」を定めておくと安心
録音・要約・提案が一本の流れになる
打合せにAIを組み込むことで変わるのは、「事務作業の速さ」だけではありません。メモから解放された担当者がお客様との会話に集中できるようになることで、ヒアリングの深さが変わります。そして深いヒアリングは、より精度の高い提案につながります。
録音→文字起こし→議事録要約→エリア情報生成→おすすめ物件整理→フォローメール作成
この一連の流れが1つのツールとプロンプトで完結するようになれば、打合せ1件あたりの後処理時間は大幅に短縮されます。
| タイミング | やること | 使うツール・プロンプト |
|---|---|---|
| 打合せ中 | スマホで録音(了承を得てから) | Notta・Google>レコーダーなど |
| 打合せ直後 (5分) | 文字起こしテキストをChatGPTに渡して議事録を整形 | ChatGPT+議事録整形プロンプト |
| 当日中(10分) | 要約をもとにフォローメールの下書きを生成・送信 | ChatGPT+フォローメールプロンプト |
| 翌日以降 | 要約からエリア情報・おすすめ物件の優先順位を生成 | ChatGPT・Perplexity+提案準備プロンプト |
| 随時 | 要約を社内CRMに登録・引き継ぎに活用 | ChatGPT+CRM入力フォーマットプロンプト |
まずは次の打合せで、スマホの録音アプリをひとつ入れて試してみてください。その後ChatGPTに貼り付けて「議事録を整形して」と頼むだけで、使い方のイメージがつかめるはずです。
講師:ナカソネ
AI活用スペシャリストのナカソネです。ビジネスパーソン向けに「現場で使えるAI活用」をサポートしながら、少しでもAIに興味を持ってもらえるよう情報を発信しています!


