「最新のニュース」をAIが知らないことがあるのはなぜか?
「最新の住宅ローン金利の動向を聞いたのに、1年以上前のデータを答えられた」 「今年に施行されたばかりの法律について質問したら、知らないと言われた」
ChatGPTなどの高性能なAIを使っていると、こうした「情報の古さ」に戸惑うことがあります。世界中の知識を持っているはずのAIが、なぜ昨日のニュースや昨年の出来事を知らないことがあるのでしょうか?
今回は、AIの知能の仕組みである「カットオフ」という概念と、情報の鮮度を見極めるための対策を解説します。
なぜAIは「今日の金利」を答えられないのか?
AIが最新情報を知らない最大の理由は、AIが人間のように「常にリアルタイムでテレビやネットを見続けている」わけではないからです。 例えば、AIは「ある時点で編集が止まった、超巨大な百科事典」を丸暗記しているような状態です。
「学習データのカットオフ」という壁
AIの知能は、インターネット上の膨大なテキストデータを「学習(トレーニング)」することによって作られます。 しかし、この学習プロセスには、スーパーコンピュータを使っても数ヶ月から半年以上の時間と、莫大なコストがかかります。そのため、開発者は「202X年〇月までのデータを使って学習させる」という締め切りを設けなければなりません。 この締め切りの日のことを専門用語で「知識のカットオフ(Cutoff Date)」と呼びます。
不動産実務における「空白の期間」
例えば、カットオフ日が「2025年4月」のAIにとって、それ以降に起きた出来事は「この世に存在しない情報」です。 不動産業界で言えば、以下のような情報は「AIの辞書」には載っていません。
- 2026年の税制改正の変更点
- 先月発表されたばかりの新築マンションの価格
- 今の瞬間の住宅ローン金利の変動
AIはこの「空白の期間」について聞かれると、過去のデータを元に「もっともらしい推測」で答えようとします。これが、AIが嘘をつく(ハルシネーションを起こす)大きな原因の一つなのです。
「検索機能」があっても過信できない理由
最近の有料版ChatGPT(GPT-4など)やGeminiには、インターネット検索をして最新情報を取ってくる「ブラウジング機能(Web検索機能)」が付いています。 「ネットに繋がっているなら、もう古い情報の心配はないのでは?」と思うかもしれません。しかし、ここにも大きな落とし穴があります。
AIの「検索サボり」問題
AIは常にネット検索をするわけではありません。質問を受けたとき、AIの内部では以下のような判断が行われています。
- A:「これは知らないことだ。ネットで調べよう」
- B:「これは知っている知識だ。自分の記憶だけで答えよう」
問題なのは、AIがB(記憶で答える)を選んでしまうケースです。 例えば、「住宅ローン減税の条件」のようなメジャーなテーマの場合、AIは「自分はすでに十分な知識を持っている」と過信し、わざわざネット検索を行わずに、学習済みの(=少し古い)知識だけで回答を作成してしまうことがあります。 結果として、ユーザーは「検索してくれたはず」と思い込み、AIは「自信満々に古い条件」を提示する……というすれ違いが起きてしまうのです。
「新旧情報の混在(キメラ回答)」のリスク
さらに厄介なのが、「古い知識」と「新しい検索結果」が脳内で混ざってしまう現象です。 AIがネット検索を行い、最新のニュースを見つけてきたとします。しかし、AIの根底にある「学習データ(過去の常識)」があまりに強力だと、最新情報をうまく上書きできず、矛盾した回答を作ってしまうことがあります。
【不動産実務で起きがちな事故例】- 「補助金」の要件ミス: 金額の上限は「今年の最新データ」を引用しているのに、対象となる床面積や省エネ基準の要件は「去年の古いルール」の説明が混ざっている。
- 「金利」のチグハグな説明: 「現在は金利が上昇傾向にあります」と最新の情勢を語っているのに、具体的な固定金利のパーセンテージは「1年前の低い数字」を出してくる。
特に危険なのは「年度」で変わるもの
不動産実務において、以下のジャンルはAIの「知ったかぶり」が最も起きやすい領域です。これらは毎年のように細かなルール変更があるため、AIの学習が追いついていない可能性が高いのです。
- 税制改正(住宅ローン控除、贈与税の特例など)
- 補助金・助成金(子育てエコホーム支援事業など)
- 再開発エリアの進捗(計画変更や延期など)
【実践】情報の整合性を「人間」が確認する3つの方法
AIの回答をそのまま信じてお客様に伝えてしまうと、誤った説明(重説ミスなど)として大きなトラブルに発展しかねません。 AIが出した情報はあくまで「優秀な新人が作った下書き」と捉え、最後は必ずプロである人間が以下の方法で「裏取り」を行いましょう。
―方法①:根拠となる「一次ソース」を要求する
AIの回答を鵜呑みにせず、必ず「その情報の出処」を確認します。プロンプト(指示文)の最後に、以下の一文を付け加えてください。
”「その回答の根拠となる、公的機関(国土交通省や国税庁など)のURLを提示してください」”
AIが提示したURLをクリックし、以下の2点を人間の目でチェックします。
- ドメインの確認: 個人ブログやまとめサイトではなく、「.go.jp(政府機関)」や「.or.jp(公的団体)」などの信頼できるドメインか。
- 年度の確認: ページ内に記載されている日付が「令和〇年度」「202X年」と、最新のものであるか。
―方法②:日付を「強制指定」して質問する
AIの検索サボりを防ぐためには、いつ時点の情報が欲しいのかを明確に指示する必要があります。「最新の」という曖昧な言葉ではなく、具体的な年月を指定しましょう。
【推奨プロンプト例】「2026年2月現在の情報を、必ずネット検索を使って調べてから回答してください。古い学習データのみでの回答は禁止します」
このように強い言葉で「検索」を強制することで、AIが古い記憶に頼るリスクを大幅に減らせます。
―方法③:重要事項は「ダブルチェック」を徹底する
AIはあくまで「調査の補助ツール」です。最終的な情報の確定は、必ず公式のデータベースで行ってください。
- 法規・税制の場合: AIで概要を掴んだ後、必ず「e-Gov(電子政府の総合窓口)」や「国税庁タックスアンサー」で条文や公式発表を確認する。
- 物件情報の場合: AIが「空室あり」と答えたとしても、タイムラグの可能性があります。必ず「レインズ(REINS)」や「自社基幹システム(ATBBなど)」でリアルタイムの状況を確認する。
AIを使う目的は「確認作業をサボるため」ではなく、「確認すべき情報へたどり着く時間を短縮するため」です。「決定の責任」は常に宅建士などの人間が持つという体制を崩さないことが、AI時代のリスク管理です。
AIは「過去の達人」、人間は「今の判断」
AIは、過去の膨大なデータを学習し、統計的な正解を導き出す「過去の達人」です。しかし、今日この瞬間に起きている市場の空気感や、目の前にいるお客様の微妙な表情の変化に対応できるのは、現場でアンテナを張っている皆さん人間だけです。
例えば、AIは「近隣の家賃相場」を完璧に知っていますが、「オーナー様がこの物件に込めた想い」や「入居者様が本当に求めている暮らし」までは理解できません。 AIが出したデータや下書きを鵜呑みにせず、「AIは嘘をつくかもしれない」という懐疑心を持って接してください。そして、最後にお客様の背中を押す「責任ある一言」は、必ず人間の言葉で伝えましょう。
この適度な距離感と役割分担こそが、AIリスクを回避し、不動産ビジネスを次のステージへ進めるための最大の秘訣です。
講師:ナカソネ
AI活用スペシャリストのナカソネです。ビジネスパーソン向けに「現場で使えるAI活用」をサポートしながら、少しでもAIに興味を持ってもらえるよう情報を発信しています!
